電脳遊戯 第19話


ニーナとリヴァルは専用機に待機させていたギアス兵に任せ、騒ぐカレンのことは放置し、勝手知ったるアッシュフォード学園の中を歩いていた。
カレンが慌てて追ってきて騒いでいるが、完全無視状態だ。
そして、真っ直ぐに体育館へと二人は足を進めた。
外での騒ぎも見ていたのだろう、各国の代表はゼロの愛人と呼ばれていたC.C.ががルルーシュと共にいて、しかもルルーシュがゼロの同志だという発言にざわめいていた。
よく考えれば、ルルーシュ皇帝が行っているのはブリタニアの破壊。先帝を倒し、貴族制を廃止し、今までのブリタニアという国そのものを作り替えていた。
ルルーシュとゼロが同志で、ゼロがブリタニアの外からの破壊を、ルルーシュがブリタニアの中からの破壊を行っていたのでは?と代表達は皆真剣に話し合っていた。
同志であった証拠はC.C.だけではなくジェレミアもだ。
ゼロとルルーシュが同志であるなら、ブリタニアに仕えていたジェレミアが突然黒の騎士団に寝返ったことも、今ルルーシュの元にいることも、最初からジェレミアはシャルルではなくルルーシュに仕えていたと考えれば説明がつくのだ。
だが、壇上にいる議長、皇カグヤは「そんなことは有り得ません!C.C.は私達を裏切り、惑わそうとしているのですわ!」と、険しい表情で否定していた。
そんなざわめく議場にルルーシュとC.C.が足を踏み入れると、ざわめきは一瞬で鎮まり、反対に二人の足音が響き渡るほど静まり返った。
二人は指示された場所へと足を進めた。
カツリ、カツリと二人分の足音が響き渡る。
指定されたその場所にはルルーシュが座る椅子すら無く、まるで裁判の被告席のように見えたが二人は文句も言わず足を進める。
まるで見下すような視線で睨みつけてくるカグヤに、C.C.は不敵な笑みを浮かべ楽しげに口を開いた。

「久しぶりだな、自称ゼロの妻」

馬鹿にするような物言いにカグヤは眉間の皺を深くし、怒鳴りつけた。

「C.C.、貴方は呼んでおりませんわ、退出なさい」
「武官の立ち入りは禁止だが、それ以外を禁止していないだろう?なんだ?ルルーシュ一人にして何をする気だ?」
「貴方には関係ありません」

まるで肯定するような返答に、C.C.はすっと目を細めた。

「大有りだ。私はゼロの同志であり共犯者、そして愛人なのだろう?自称妻のお前に話があってわざわざ来てやったんだ。その私を蔑ろにするつもりか?」
「なんて無礼な!口を慎みなさい!」
「口を慎むのはどっちだ小娘!なぜお前は偉そうに人を見下す態度でその壇上にいる!そこにお前がいられるのは、日本を愛するゼロが日本の皇家たるお前が粗雑に扱われないようにと!そのために策を練り、世間知らずの小娘でしかないお前にその地位を与えたこと忘れたか!」
「な!なんて無礼な!私にはその才能と資格があるからこそ議長に選ばれたのです!訂正しなさい!!」

C.C.の言葉をカグヤは否定したが、辺りは再びざわめきだし、確かにあのような幼い娘、しかも今は小国でろくな力など持たない国の者がなぜ議長という最上位の地位にいるのだ?という疑問の声が上がりだす。
それは本来であれば当然の疑問なのだが、今までゼロが上手く立ち回り、その疑念さえ抱かせなかったのだ。ゼロがいたからこそ得た議長という立場。
その事を忘れた愚か者め。
C.C.は冷たい眼差しでカグヤを見た。
カグヤは怒りに顔を赤くし身を震わせた後、何やら手元にある物を力強く押した。

「なっ!?」
「C.C.!!」

突然、機械音とともにルルーシュの周辺の床がせり上がり、高く厚さのある壁が現れた。そこはルルーシュから少し離れて立っていたC.C.の真下の床。C.C.はせり上がる壁の縁に持ち上げられていった。それでもどうにかバランスを保っていたのだが、天井近くまで上がった壁が停止した衝撃でバランスを崩し、小さな悲鳴とともに円柱の中へ落ちた。
辺りから出席者たちの悲鳴が聞こえた。
円柱の中に閉じ込められていたルルーシュは咄嗟に手を伸ばし、頭から落ちてきたC.C.の体を抱きとめた。見た目通り貧弱なルルーシュはどうにか抱きとめはしたが、支えきれず勢いそのままに背中から床に倒れた。

「ぐっ・・・!」
「・・・っルルーシュ!この馬鹿!!」

C.C.に押しつぶされる状態となったルルーシュは苦しげな呻き声をあげ、C.C.は青ざめた顔で慌ててルルーシュの上から体をどけた。

「馬鹿だお前は!私は体の丈夫さが取り柄の女だぞ!?その私を庇ってどうするんだ!ああ、何処が痛む?骨は大丈夫か!?」

突然起きたことに驚いていた各国代表達は、スピーカーから聞こえてくるC.C.の声に正気を取り戻し、今すぐ壁を取り除けとカグヤに詰め寄った。 だがカグヤは断固拒否の姿勢を示した。

「壁を取り払うことなど出来ません!皆騙されているのです!この男は悪逆皇帝!いつ手の平を返し、此方に危害を加えるか解りませんわ!!」
「この馬鹿女!!ならば私達をここに呼ぶな!あんな不躾なメール一通で呼び出しておいて!何が超合集国に参加させて上げますだ!すでにルルーシュによって破壊され、ゼロとルルーシュの手により改革が行われているブリタニアが、裏切り者達がふんぞり返っている超合集国になど参加するものか!!波風が立たないよう、こうして出向いたというのに、ゼロだけではなくルルーシュまで暗殺するつもりかお前は!!」

C.C.の怒声に、周りは水を打ったように静まり返った。

「ゼロの、暗殺・・・?」

中華連邦の天子がぽつりとこぼしたつぶやきに、皆顔色を変えてカグヤを見た。

『黙れC.C.!お前はルルーシュとともに世界を操るつもりだったんだろう!』

聞こえてきたその声は、C.C.がいる壁の内側のモニターから聞こえてきていた。
映しだされたのは黒の騎士団副司令扇。

「それはお前だろう扇!ゼロを暗殺しようとした愚か者が!暗殺に失敗した後、ゼロの死を流してゼロの動きを封じ、黒の騎士団を乗っ取った裏切り者が!」

辺りはより一層ざわめきだしたが、扇の言葉は止まらなかった。

『ゼロは死んだ!あのフレイヤで重症を負ってな!』
「重症!?ゼロが乗っていた蜃気楼は無事に戻ったのに、中にいたゼロはフレイヤで重症だと!?笑わせるな!おまえ達の手を逃れ、蜃気楼で脱出したゼロを、敵に蜃気楼を奪われた、撃ち落せ、殺せと命令したのは誰だ!ゼロを救い出したゼロの弟は、あの時命を落としたんだ!どれほどゼロがお前たちを恨んでいるか悟れ!」
『自業自得だ!ゼロは危険だ!生きていてはいけないんだ!』

その言葉を聞いて、C.C.は唇を噛み締めたあと、未だ倒れ伏しているルルーシュを心配そうに見詰め、顔を俯かせた後口元に笑みを浮かべた。

馬鹿な男だ。
頭に血が上って忘れたか?
この会話が、各国代表の耳に届いていることを。
気づいているか?
黒の騎士団副司令が、ゼロ暗殺を認めたことに。

扇だけではない、その通信に映しだされた藤堂と星刻も暗殺に関わっている可能性があり、議長であるカグヤは間違いなく関与している。
それを自ら示したのだ。

各国の代表は、傍に控えていた部下に命じ即座に皇カグヤを拘束した。そして、ルルーシュとC.C.を囲む壁を取り払った。
ゼロとは黒の騎士団のCEOであり、超合集国の創設者。いくら黒の騎士団のCEOで、超合集国に属する軍隊の指揮官という地位にあっても、ゼロは誰よりも発言権があり、彼の一言で上層部の力など消え去ることは容易に想像できる。
だから力を得た者達はその力を手放さいないためにゼロを亡き者にしようとした。
そう結論付けられた。
皇帝に対し失礼な発言をしたカレンも含め、黒の騎士団の幹部には拘束命令が出されたが、カレンがKMFで暴れ抵抗した。他の団員がKMFで駆けつけたが紅蓮相手では手も足もでず、自分たちの悪事をもみ消すために暴れているという代表たちの言葉と、抑えられたカグヤと扇達を見てようやく降伏した。
ルルーシュの手当をと各国代表が口々に言ったがC.C.はそれを断固拒否。
皇帝専用機に乗っていたギアス兵を呼び寄せると、未だ意識の戻らない皇帝を専用機に載せ、日本を後にした。
皇帝専用機に乗っていたリヴァルとニーナ、そしてミレイが担架に乗せられ運ばれてきたルルーシュを心配そうに見つめていた。

「ルルちゃん、大丈夫なの!?」

震える声でミレイが言った。
彼女は皇帝とは同じ生徒会だったので独占インタビューしてきます、と上司を説得し一人で乗り込んできていたのだ。
すでに専用機は日本を離れ海上にあった。
それを確認したC.C.は、心配そうにしていた表情を一瞬で冷たい視線に変えた。

「ルルーシュなら何も問題はない。おい、起きろ。もう芝居はいい」

C.C.はぞんざいな口調で横になっているルルーシュに声をかけた。
すると、今まで苦しげな表情で目を閉ざしていたルルーシュは、パチリと目を開けた。

「ひどいな。でも、やっぱり正解だったね」

ルルーシュにしては違和感のあるしゃべり方。
ミレイ、リヴァル、ニーナは目を瞬かせながら、体を起こすルルーシュを見た。
ルルーシュは自分の頭と顔に手を伸ばすと、髪をむしりとり、顔を剥がした。
その様子に皆息を呑む。
その下から出てきたのは。

「スザク!?」
「スザク君!?」
「え!?ルルーシュ君じゃない!?」
「万が一のことを考えて、僕が変装をしていたんです。ルルーシュ一人で来いなんて、隙を見せた瞬間に暗殺すると宣言しているようなものですから」

仮面を外したスザクの声もいつものスザクの声に戻っていた。恐らくあのルルーシュの仮面に変声機がつけられているのだろう。顔に貼られたシールのようなものをはがしながら担架から降りたスザクは、テーブルの上に置かれていたウエットテッシュを手に取るとそれで手を拭いた。白い肌が、健康的な褐色の肌へと変わる。

「・・・化粧・・・?」
「ルルーシュ肌は白いから、手袋で隠す案もあったんですけどね。僕の手はルルーシュと違ってゴツゴツしているし。ばれないか内心ヒヤヒヤしてましたよ」

確かに言われてみればスザクの手はルルーシュの手とは違うし、皇帝服も何時もピタリとした感じだったのに、今日は少し全体的に余裕があった。ピタリとしたものを着たら筋肉が浮き出るから、その対策だったのだ。 ルルーシュとは違いスザクならC.C.を抱きとめるなど余裕だし、勢いを一度殺してから倒れたので当然怪我もない。
スザクは皇帝服を脱ぎ、ナイトオブゼロの服を引っ張りだすと着替え始めた。

「でも、ラッキーだったな。アッシュフォード会談に来た目的はアンチフレイヤシステム政策のためにニーナを探すことだったけどすぐに見つかったし、リヴァルと会長さんもこうして来てもらえた」
「アンチフレイヤシステム・・・?」

ニーナは一言一言を噛み砕くようにそう言った。

「フレイヤの第一次製造分をシュナイゼル殿下が持っている。ルルーシュはシュナイゼル殿下はフレイヤを使用し、世界を恐怖で支配するつもりだと予想している。それを阻止するために、フレイヤを無力化させる装置を作りたいんだ」
「え!?」
「恐怖で支配!?」
「何だそれ!?」
「そのこともあって、リヴァルと会長さんにも協力して欲しいんです」

真剣な声音のスザクに、これは嘘ではないのだろうと三人は理解し、固唾を呑んだ。

「枢木、その前に三人に話すべきことがあるだろう」

余計なことばかり話すなと、C.C.は苛立たしげにスザクに言った。

「ああ、そうか。そっちの方が先だったね、特に・・・ニーナには」

スザクはナイトオブゼロのマントを羽織ると、真剣な表情で告げた。

「みんな、よく聞いてほしい。ゼロの正体は、ルルーシュだ」

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